アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン 日本ツアー2013

Welcome

新時代のヴァイオリン&ピアノ・デュオ


いま、もっとも未来に耀いているヴァイオリニスト
アリーナ・イブラギモヴァ

ロン・ティボー国際コンクールで優勝したイブラギモヴァの盟友ピアニスト
セドリック・ティベルギアン

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会
2013年日本ツアー オフィシャル・サイト

公演日程
[名古屋公演] 主催|電気文化会館
2013年9月13日(金)19:00 名古屋・電気文化会館
2013年9月14日(土)15:00 名古屋・電気文化会館
2013年9月15日(日)15:00 名古屋・電気文化会館

[東京公演] 主催|王子ホール
2013年9月18日(水)19:00 銀座・王子ホール
2013年9月19日(木)19:00 銀座・王子ホール
2013年9月20日(金)19:00 銀座・王子ホール

 

ニュース

NEWS

2013.09.07
ミッシャ・ドナート氏のプログラム・ノート(抜粋)「ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ集Vol.1(ウィグモア・ホール ライブより)」をアップしました。
2013.08.28
岩野裕一氏(音楽ジャーナリスト、編集者)のエッセイ“「全身全霊」の音楽”をアップしました。
2013.08.27
メディア(youtube)にバッハ:無伴奏パルティータ第2番から「サラバンド」をアップしました。
2013.08.26
後藤菜穂子氏(音楽ジャーナリスト、ロンドン在住)のレポート「神秘のピアニッシモ、軽快なヴィルトゥオジティ」をアップしました。
2013.08.07
松本學氏(音楽批評)のエッセイ「選ばれし音楽家」をアップしました。
2013.07.30
王子ホールマガジン(2013夏号)に掲載されているアリーナ・イブラギモヴァのインタビューが、王子ホールのウェブサイトにアップされました。
2013.07.26
メディア(youtube)にバッハ:無伴奏パルティータ第3番から「ブーレ」と[ジーク」をアップしました。
2013.07.10
メディア(youtube)にバッハ:無伴奏パルティータ第3番から「ロンド形式のガヴォット」と[メヌエットI/II」をアップしました。
2013.06.24
メディア(youtube)にバッハ:無伴奏パルティータ第3番から「プレリュード」と「ルール」をアップしました。
2013.06.21
片桐卓也氏(音楽ジャーナリスト)のエッセイ「アリーナの瞳」をアップしました。
2013.06.20
アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン:ベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会日本ツアー2013の特設サイトをアップしました。
 

公演情報

CONCERT INFORMATION

[名古屋公演] 主催|電気文化会館

2013年9月13日(金)19:00 名古屋・電気文化会館 I
2013年9月14日(土)15:00 名古屋・電気文化会館 II
2013年9月15日(日)15:00 名古屋・電気文化会館 III

各公演:全席指定 4,000円 学生券 2,500円
3公演セット券 10,000円
※学生券&セット券は電気文化会館チケットセンターのみ取扱い

[チケットのお問合わせ]電気文化会館チケットセンター052-204-1133
詳細はこちら

■チケットの予約
電気文化会館チケットセンター 052-204-1133
チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード:192-432)
愛知芸術文化センター プレイガイド 052-972-0430
ヤマハ プレイガイド 052-201-5152

[東京公演] 主催|王子ホール

2013年9月18日(水)19:00 銀座・王子ホール I[完売]
2013年9月19日(木)19:00 銀座・王子ホール II
[完売]
2013年9月20日(金)19:00 銀座・王子ホール III
[完売]
各公演:全席指定 5,500円
3公演セット券 15,000円
※セット券は王子ホールチケットセンターのみ取扱い

[チケットのお問合わせ]王子ホールチケットセンター03-3567-9990
詳細はこちら

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990
ローソンチケット 0570-000-407 (Lコード:36771)
e+(イープラス)

[2013年日本ツアー公演プログラム]

アリーナ・イブラギモヴァ&セドリック・ティベルギアン
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会


I
2013年9月13日(金)19:00 名古屋・電気文化会館
2013年9月18日(水)19:00 銀座・王子ホール

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番ニ長調 Op.12-1
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第4番 イ短調 Op.23
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第8番 ト長調 Op.30-3
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2

II
2013年9月14日(土)15:00 名古屋・電気文化会館
2013年9月19日(木)19:00 銀座・王子ホール

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 Op.24「春」
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.12-2
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第10番 ト長調 Op.96

III
2013年9月15日(日)15:00 名古屋・電気文化会館
2013年9月20日(金)19:00 銀座・王子ホール

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第6番 イ長調 Op.30-1
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 変ホ長調 Op.12-3
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番 イ長調 Op.47「クロイツェル」
 

プロフィール

PROFILE

アリーナ・イブラギモヴァ

アリーナ・イブラギモヴァ:ヴァイオリン
Alina Ibragimova : violin

今、もっとも未来へ耀いているヴァイオリニスト!

 ロシア生まれ。4歳でヴァイオリンを始める。1996年に家族と共にイギリスに転居、そこで父はロンドン交響楽団の首席コントラバス奏者となる。1997年からメニューイン音楽学校、その後ロンドン王立音楽院で研鑽を積む。

 1998年、パリで開催されたユネスコ人権宣言50周年のオープニング・セレモニーで、メニューイン卿指揮の下、ニコラ・ベネディッティとバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」を共演。その数ヵ月後、ウェストミンスター寺院のメニューイン卿の葬儀で同じ協奏曲の緩序楽章を演奏することになる。

 ユーディ・メニューインの伝記の中で、H.バートンはアリーナについて次のように記述している。「ユーディは何度もアリーナと共演した。フォークストーンでメニューインの名声の下に集まって来たほとんどの人々に、メニューインの精神が幸福に満ちているのを感じさせた。そして、アリーナがエネスコに捧げられたイザイのソナタを弾いたとき、メニューインが行ってきたヴァイオリン教育の長い伝統の継続とメニューインの夢の強さを感じた」

 いくつかの国際コンクールに入賞の後、2002年にソロ活動を開始、この年にロンドン交響楽団音楽奨学金『シェル賞』を受賞する。これまでに、ナターシャ・ボヤルスキ、ゴルダン・ニコリッチ、クリスチャン・テツラフ、エイドリアン・バターフィールド等に師事する。

BBCラジオ第3の新進音楽家育成プログラムのアーティストに選出され、バーミンガム市響、フランクフルト放送響、ウィーン室内管弦楽団と協奏曲を共演。さらにザルツブルク音楽祭とヴェルビエ音楽祭で室内楽コンサートを、パリのルーヴル美術館でソロ・リサイタルを行う。またNHK「クラシック倶楽部」とBBCラジオ3の「バッハ・クリスマス・フェス ティヴァル」にも出演する。

 2007年ウィグモア・ホールにデビュー、またフランシス=グザヴィエ・ロト指揮ロンドン交響楽団の共演でBBCプロムスにデビュー。これまでにワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮フィニーチェ歌劇場管弦楽団、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツカンマー・フィル・ブレーメン、サー・チャールズ・マッケラス指揮フィルハーモニア管、ジャンアンドレ・ノセダ指揮BBCフィルハーモニー、エドワード・ガードナー指揮BBC響、オスモ・ヴァンスカ指揮BBCスコティッシュ響、ヤニック・ネゼ=セガン指揮フランクフルト響、カルロ・リッツ指揮オランダ放送ファルハーモニー、第25回ロッケンハウス音楽祭でギドン・クレーメルと共演。また、2010年BBCプロムスでは、エドワード・ガードナー指揮BBC響とヒュー・ワトキンスのヴァイオリン協奏曲を世界初演して話題になる。

 アリーナはザルツブルク・モーツァルト週間2005のクレメラータ・バルティカとの共演でヴァイオリンの指揮振りでザルツブルクにデビューする。以来クレメラータ・バルティカとギドン・クレーメルと頻繁にザルツブルク音楽祭、ヴェルビエ音楽祭、MDR夏の音楽祭、パリのザール・プレイエルで共演。

2008年、若い優秀な演奏家に与えられるボルレッテイ=ブイトーニ・アワード受賞。2009年、クラシック・ブリット・アワードのヤング・ブリティッシュ・クラシカル・パーフォーマー賞受賞。2011年、ロイヤル・フィルハーモニ協会のヤング・アーティスト・アワード受賞。

ゲオルグ・フォン・オペルから貸与されたピエトロ・グァルネリ製作(1738年)の楽器を使用。

アリーナ・イブラギモヴァ関連リンク

オフィシャル・ウェブサイトhttp://www.alinaibragimova.com/



セドリック・ティベルギアン

セドリック・ティベルギアン:ピアノ
Cédric Tiberghien, Piano

 セドリック・ティベルギアンの輝かしい国際的なキャリアは五大陸全土に渡って築かれており、世界で最も名声の高いホール、近年ではケネディ・センター、ロイヤル・アルバート・ホール、クイーン・エリザベス・ホール、ウィグモア・ホール、バービカン・センター、サル・プレイエル、シャンゼリゼ劇場、ベルリンのベヒシュタイン・ホール、ザルツブルクのモーツァルテウム、シドニー・オペラハウス、東京文化会館、浜離宮朝日ホール等に登場している。

最近では、アメリカでコンチェルト・デビューを飾り、エッシェンバッハ指揮ワシントン・ナショナル交響楽団と「メシアン:トゥーランガリラ交響曲」を演奏。この演奏は満場の喝采を浴び、直ちに2011/2012シーズンのボストン交響楽団の2回の定期演奏会に招かれた。その他の今後の予定としては、シアトル交響楽団、NHK交響楽団、札幌交響楽団、タンペレ・フィル、ブリュッセル・フィルとの初共演や、アイルランド国立交響楽団、サンパウロ交響楽団、ストラスブール・フィルとの再共演、さらには、リール国立管弦楽団とのツアーや、エンリケ・マッツォーラ指揮イル・ド・フランス国立管弦楽団とのベートーヴェン/ピアノ協奏曲全曲演奏会が控えている。

リサイタルは、ウィグモア・ホールでの名誉あるマスター・シリーズに今後3シーズンにわたり出演することが決まっており、その他、北京、ローマ、マドリード、メルボルンでのデビュー公演、ロンドンの「インターナショナル・ピアノ・シリーズ」への再登場、また、ヨーロッパ各地の音楽祭への出演も予定されている。
セドリック・ティベルギアンの最新CDはフランソワ=グザヴィエ・ロト指揮リエージュ・フィルとの「フランク:交響的変奏曲、交響詩《鬼神》」である。その他、ビエロフラーヴェク指揮BBC交響楽団との「ブラームス:ピアノ協奏曲第1番」や、6枚のソロ作品集がハルモニア・ムンディからリリースされている。

セドリック・ティベルギアンはパリ国立高等音楽院でフレデリック・アゲシーとジェラール・フレミーに師事し、1992年、わずか17歳でプルミエ・プリを受賞。その後、複数の国際コンクール(ブレーメン、ダブリン、テル・アヴィヴ、ジュネーブ、ミラノ)で入賞し、中でも特筆すべきは、1998年、ロン=ティボー国際コンクールでの優勝で、合わせて聴衆賞とオーケストラ賞を含む5つの特別賞も受賞した。これにより、彼の国際的なキャリアがスタート。7回の日本公演やヨーロッパ全土での披露公演等、世界中で150回を超える公演を行った。

60曲を超える協奏曲のレパートリーを持ち、世界の一流オーケストラと共演を重ねている。これまでに、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、ブダペスト祝祭管弦楽団、チェコ・フィル、BBC交響楽団、ハレ管弦楽団、フランス放送フィル、パリ管弦楽団、フランス国立管弦楽団、ワシントン・ナショナル交響楽団、シドニー交響楽団、東京フィル、新日本フィル、アーネム・フィル、シュトゥットガルト州立歌劇場管弦楽団、ハンブルク・フィル、ドレスデン・フィル等と共演。指揮者では、クリストフ・エッシェンバッハ、イルジー・ビエロフラーヴェク、ライオネル・ブランギエ、ロビン・ティッチアーティ、シモーネ・ヤング、チョン・ミョンフン、クルト・マズア、イワン・フィッシャー、レイフ・セーゲルスタム、ルイ・ラングレー、佐渡裕、イェジー・セムコフ等と共演している。

セドリック・ティベルギアンは室内楽にも熱心に取り組んでおり、特に、アリーナ・イブラギモヴァ(vn)、ソフー・カルトホイザー(S)、ピーター・ウィスペルウェイ(vc)とは定期的にパートナーを組んでいる。室内楽に対する情熱は彼のCDに顕著に表れており、最近では、アリーナ・イブラギモヴァとのラヴェル/ルクー作品集(ハイペリオン)、シマノフスキー:ヴァイオリンとピアノのための作品全集(ハイペリオン)、ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全曲集(ウィグモアホール、ライブ録音)がある。

 

チケット情報

TICKET INFORMATION

[名古屋公演] 主催|電気文化会館

2013年9月13日(金)19:00 名古屋・電気文化会館 I
2013年9月14日(土)15:00 名古屋・電気文化会館 II
2013年9月15日(日)15:00 名古屋・電気文化会館 III

各公演:全席指定 4,000円 学生券 2,500円
3公演セット券 10,000円
※学生券&セット券は電気文化会館チケットセンターのみ取扱い

[チケットのお問合わせ]電気文化会館チケットセンター052-204-1133
詳細はこちら

■チケットの予約
電気文化会館チケットセンター 052-204-1133
チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード:192-432)
愛知芸術文化センター プレイガイド 052-972-0430
ヤマハ プレイガイド 052-201-5152

[東京公演] 主催|王子ホール

2013年9月18日(水)19:00 銀座・王子ホール I[完売]
2013年9月19日(木)19:00 銀座・王子ホール II
[完売]
2013年9月20日(金)19:00 銀座・王子ホール III
[完売]
各公演:全席指定 5,500円
3公演セット券 15,000円
※セット券は王子ホールチケットセンターのみ取扱い

[チケットのお問合わせ]王子ホールチケットセンター03-3567-9990
詳細はこちら

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990
ローソンチケット 0570-000-407 (Lコード:36771)
e+(イープラス)
 

メディア

MEDIA











 

エッセイ&インタビュー

ESSAY & INTERVIEW

■ プログラム・ノート

ベートーヴェン
ヴァイオリン・ソナタ集―Vol.1:ウィグモア・ホール ライヴ

プログラム・ノート より抜粋

ミッシャ・ドナート
(訳:矢澤孝樹)
協力:キングインターナショナル

ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ集―Vol.1:ウィグモア・ホール ライヴ

 アリーナ・イブラギモヴァとセドリック・ティベルギアンは、まだ二人がBBCラジオ3の“ ニュー・ジェネレーション・アーティスト” という新人アーティスト紹介番組の出演者だったころから、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを何曲か演奏している。しかし、全曲演奏の機会に初めて恵まれたのは、2009年の10月初めだった。オールドバラでの練習期間において、二人はまるまる一週間集中し、あらゆるヴァイオリンとピアノのためのレパートリーの中核であるこのソナタたちのリハーサルに取り組むことができた。「朝から晩まで演奏し、語り、考え、それぞれのソナタと調の相互関係と雰囲気、つながりを感じることができました」とティベルギアンは語る。イブラギモヴァにとって、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの魅力は、彼がこのジャンルを発展させていったその道のりにある。つまり、比較的初期にあたる作品12 の3つのソナタから、後期の入り口に立つ孤立したソナタ、作品96への歩みだ。「このソナタたちは」イブラギモヴァは語る、「飽くことのない探究心によって形式と感情の可能性がどこまでも追求されています。音楽が私たちに与えてくれるもっとも豊かなもののひとつです。」

 オールドバラで集中的に学んでから間髪おかず、イブラギモヴァとティベルギアンは10曲のソナタを3回の演奏会に分けて全曲演奏した。そして私は、この“ ベートーヴェンの週末” の一角をなす二人のセミナーに招聘された。彼女たちは、“ ライヴ” にこの作品を図解するための、片棒を私に担がせたというわけである。舞台上での二人はすでに、生き生きとした自発性と、細部への繊細な気配りの、類まれな両立を果たしていた。しかしその月の終わりに、二人がこのCDのコンサート録音―より広大な空間での最初のベートーヴェン・サイクル―としてウィグモア・ホールを訪れたとき、両者は当盤と同じ4曲のソナタを英国内のいくつかの場所で演奏しており、音楽は一点の曇りなく、彼らの血肉と化していた。「10曲のソナタを旅し、“ ライヴ”で演奏することは、それを奏でる人間の、音楽家としての部分のみならず、人間そのものも変えてしまうのです」と、ティベルギアンはきっぱり言い切る。

 ・・・中略

 ウィグモア・ホールの聴衆は、この演奏会のプログラムにある4つのソナタのうち、真の緩徐楽章を持つソナタがひとつしかない(《第7番》)ことに衝撃を受けたかもしれない。きびきびして厳格な作品23(《第4 番》)のソナタ(作品24《春》の同僚)ですら、両端楽章が例外的に速いにもかかわらず、ベートーヴェンは中間楽章を緩徐的な性格よりもスケルツォにせずにはいられなかった。実際、ベートーヴェンの楽曲履歴を見ていると、この種の混成的な形式への偏愛が見受けられる。作品30の三連画の真ん中に位置する劇的雄大なソナタ(《第7番》)のみが例外で、ベートーヴェンの多くのハ短調作品がそうであるように、第2楽章は大規模かつ静謐で、“ 柔らかな” 調である変イ長調で書かれている。

 このハ短調ソナタ第1 楽章の常ならぬ特徴は、慣習的な提示部の反復を欠いており、提示部がそのまま展開部に継ぎ目なく溶け込んでゆくという点だ。このベートーヴェンの革新は、つまりアリーナ・イブラギモヴァとセドリック・ティベルギアンが他の場所の反復部でくり広げる演奏上の変奏(作品23第2楽章の第2主題におけるちょっとしたためらいなどが好例だ)を楽しめないということでもあるのだが、その代わり、作品30の2の冒頭楽章アレグロのコーダ開始部分では、神秘的なピアニッシモが即座に衝撃的な効果を生み出し、十分にその償いを果たしてくれる。(イブラギモヴァは、自意識によるほのめかしを必要とせず、真のピアニシモを創造することができる稀有なヴァイオリニストのひとりなのだ)この日ウィグモア・ホールを埋めた満員の聴衆の中で、いつかこの日の演奏会のことを忘れてしまう者など、誰もいないだろう。

*プログラム・ノート全編は、9月中旬に発売されるベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全集(全3巻)でお読みいただけます。

 

■ エッセイ

「全身全霊」の音楽

岩野裕一(音楽ジャーナリスト、編集者)

「全身全霊」の音楽
©R. Hotta

 アリーナ・イブラギモヴァ!

 2011年11月13日、所沢市民文化センター・キューブホールにおける彼女のリサイタルは、私にとってまさに衝撃的な「事件」であった。

 舞台の三方を客席で囲まれたこのホールのステージに、ヴァイオリンを携えた彼女が微笑みと静けさを湛えて現れたときから、何か大変なことが始まる予感がホールに満ちていったのはなぜだろう? 事実、バッハの〈無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第1番〉が始まると、会場を埋めた私たちは、誇張でなく、彼女の演奏に、そしてヴァイオリンをひくその姿に釘付けとなったのである。ヴァイオリンから奏でられる音楽と、演奏者の肉体や精神の動きゆくさまが、これほどまでに一体化した演奏を、われわれは果たして体験したことがあっただろうか?

 全身全霊、という言葉があるが、イブラギモヴァの演奏を形容するのに、これ以上の言葉はない。音楽をする喜びと作品に対する敬意を全身で表しながら、作品の世界に没入していくその姿は崇高さを感じさせるほどであり、聴衆は祈りにも似た気持ちを抱きながら、彼女とともに音楽を体験していくのだ。しかもそれは決して堅苦しいものではなく、彼女の可憐な笑顔そのままに、自由な雰囲気に満ちている。

 あれから2年。いまや世界の音楽シーンの中心にいるイブラギモヴァが、再び日本にやってくる。俊英セドリック・ティベルギアンを伴って演奏するのは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲だ。

 全身全霊をかけたイブラギモヴァ渾身の演奏を、ぜひライヴで味わってほしい。きっと生涯忘れられないコンサートになるはずだから。

 

■ レポート

神秘のピアニッシモ、軽快なヴィルトゥオジティ

アリーナ・イブラギモヴァ ヴァイオリン・リサイタル
ピアノ:セドリック・ティベルギアン

2011年9月23日 ウィグモア・ホール

後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト、ロンドン在住)


©R. Hotta

 アリーナ・イブラギモヴァは時代の先端をゆくヴァイオリニストだと思う。気鋭のモダン・ヴァイオリン奏者としてバッハからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを自在に弾きこなし、しかもバッハやベートーヴェンでは歴史的な奏法も取り入れた瑞々しいアプローチで注目されている。その上、彼女は英国の王立音楽大学でピリオド奏法も本格的に学び、バロック・オーケストラなどとの共演に加え、古典派の弦楽四重奏曲をピリオド楽器で演奏する〈キアロスクーロ・カルテット〉というグループを結成、率いている。

 ロンドンの名門の室内楽ホール、ウィグモア・ホールでは今やイブラギモヴァは大人気のアーティストだ。2009/2010年のシーズンには同ホールで、デュオを組むセドリック・ティベルギアンとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏を行ったのは記憶に新しい。そのライヴ録音はウィグモア・ホールLIVEレーベルからリリースされ、コンサートおよびレコーディングともに大好評を博した。

 2011年の9月には同じくピアノのティベルギアンとのコンビで、20世紀初頭のフランス音楽を中心にしたデュオ・リサイタルを行い、ウィグモアの耳の肥えた聴衆を喜ばせた。二人のCDに収録されているラヴェルとルク―のヴァイオリン・ソナタに加え、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタとシマノフスキの難曲《神話》である。こうした密度の濃いプログラムを組むあたりは、師匠のテツラフ譲りだと思われる。

 このリサイタルを聴いて、アリーナ・イブラギモヴァの演奏の特色のひとつはその音色のパレットの豊かさにあると感じた。とりわけその弱音の美しさは格別であり、彼女の弓の精確かつ柔軟なコントロールはもはや驚異的でさえある。それはドビュッシーのソナタでも発揮されたが、シマノフスキの3つの《神話》においてもっとも。この曲での高音域でのピアニッシモの演奏はひじょうに高い技巧を要するが、イブラギモヴァの演奏は息をのむほど美しく神秘的であった。

 他方、23歳で早世したベルギーの作曲家ルク―のヴァイオリン・ソナタは、若き作曲家のほとばしるエネルギーがそのまま音楽に純化した作品であるが、イブラギモヴァとティベルギアンは最後まで集中力を保ち、迫力に満ちた演奏を繰り広げた。 プログラム最後はラヴェルのト長調のヴァイオリン・ソナタ。どちらかというとフランス風のエスプリを表に出さない節度のある解釈であったが、続いてアンコールで弾いてくれたラヴェルの《ツィガーヌ》はまさに圧巻であった。これほど力まず軽やかなヴィルトゥオジティを聴かせてくれるヴァイオリニストはそうはいまい。

 

■ エッセイ

選ばれし音楽家

松本學(音楽批評)


©R. Hotta

 「神がかった演奏」というのは、まさにあの時のことをいうのだろう。---アリーナ・イブラギモヴァが、2011年の来日で名古屋フィルに客演した際のことである。このとき彼女はショスタコーヴィチの第1協奏曲を弾いたのだが、第2楽章スケルツォでの鋭利な切れ味、さらに途中からテンポを上げて猛烈なスピードで切り込んでゆく動物的ともいうべき直感、続くパッサカリアでの集中力と凝縮などまさに圧倒的で、彼女が音楽に、ヴァイオリンに選ばれた音楽家であることを証明していた。決して大袈裟ではなく、“伝説”となるコンサートだったと思う。

 そのアリーナの再来日がいよいよ迫ってきた。彼女が今回我々に披露してくれるのは、朋友ティベルギアンとのベートーヴェンのソナタ、それも全曲である。このコンビによるベートーヴェンは、既に2009、10年にウィグモアホールで行われたライヴ録音がリリースされているが、あの名演を日本で更新してくれると思うと興奮を禁じ得ない。

 アリーナの演奏の魅力は、音楽の語り口(抑揚や和声感)が明晰で説得力十分であるのと同時に、まるで今そこで作品が生成されているかのような即興的新鮮さとヴィヴィッドさが同居していることにある。アリーナのベートーヴェンも、作品のフォーマットを崩すことなく、ピリオド要素を織り交ぜた多彩な表現の妙に溢れたものだ。これまでにニコリッチやテツラフ、またクレーメルらから様々なスタイルを吸収し、「あらゆる意味でのクリエイティヴィティ(創造性)や新たな音色を模索している」と語る彼女らしい。

 共演のティベルギアンも素晴らしいピアニストだ。「とてもセンシティヴで、美しい音を弛まず追究しています。それでいながら、軽やかさから巨大な音まで表現の幅が広大で、ヴィルトゥオーゾ的でもある。自分をよく見せようなどというエゴは皆無で、音楽やその細部への関心が常に最初にあるという人」とアリーナも絶賛する。互いに刺激し合う2人によるベートーヴェン。「この秋、最も聴いてほしい公演」と、声を大にしてお薦めしたい。

 

■ エッセイ

アリーナの瞳

片桐卓也(音楽ジャーナリスト)

 アリーナ・イブラギモヴァの演奏をライブで聴いたのは2011年 の来日公演だった。その前に、あるコンサート会場で彼女と会い、 ちょっとだけ挨拶をしたのだが、その時の彼女の瞳がとても美しかっ た。北国の森の中に隠された小さな湖のように、時には蒼天を映し、時 には星屑を映す、そんなことを思った。

 一方で、アリーナの演奏は情熱的だった。というよりも、バッハを演 奏しながら、音楽と一体となり、その音楽そのものになろうとするよう な強い意志に満たされた演奏だった。素晴らしい音色だけでなく、どん なにパッショネイトでも崩れないテクニックの見事さは、若い世代の ヴァイオリニストの中で特筆すべきレベルにある。彼女を聴かずして、 いま他に誰を聴くべきというのか。出来ればその時の全公演を聴きた かったが、それは難しかった。名古屋で演奏したショスタコーヴィチの 協奏曲も歴史に残るほどの名演だったと、それを聴き行った友人が教え てくれた。

 そのアリーナが再び来日公演を行う。王子ホール(東京)と電気文化 会館(名古屋)で、それぞれ3日間でベートーヴェンのヴァイオリン・ ソナタ全曲を演奏するのだ。最近ではファウスト&メルニコフなどが記 憶に残るベートーヴェン全曲を披露してくれているが、アリーナとセド リックによるベートーヴェン全曲は、より若い世代によるひとつの確信 を示してくれるだろう。

 アリーナの瞳。その奥に秘められた計り知れない情熱。その炎に焼か れるために、私は彼女の演奏を聴きに行く。

 

■ インタビュー

耀かしい未来

フィオラ・マードック
BBCミュージック・マガジン
2011年3月号

 今日最もエキサイティングな若手演奏家は誰か?8ページの特集の中では30歳以下の6人のすばらしいアーティストを皆さんは知ることになるだろう。
そして最初に紹介するのが、アリーナ・イブラギモヴァ。彼女は並外れた才能を持ったヴァイオリニストだ。フィオラ・マードックが彼女の他にも将来が嘱望されるアーティストをレポートする。


 アリーナ・イブラギモヴァは恥ずかしそうに、ためらいながら彼女の人生の目的はまだ知らない分野をより多く学び、今より良い演奏をすることだ、と語った。これを聞くと多くの人は、世に出ることを夢見る25歳のヴァイオリニストの1人に過ぎない、と思われるかもしれない。ジーンズとTシャツのいでたちでノーメイクの彼女は、一見するとおてんばな体操選手のような印象を受ける。楽器を片手にインタビューの場に駆け込んできた彼女はロンドンの全く当てにならない都市交通の遅れにみごとに巻き込まれてしまい、まるで授業に遅刻したしまった学生のように謝罪を繰り返した。

 でもこのアリーナは既にスターなのだ。4歳のときに初めてのレッスンを受けた彼女は神童だった。本格的、かつ多才な彼女のレパートリーはバロックから古典、そして現代曲まで至り、その成功は華々しく、あっという間であった。彼女は既にとても高い評価を得ているCDをリリースしており、その中には、いつの世においてもヴァイオリニストにとっては最大の挑戦となるバッハのソナタとパルティータ(2009年)が含まれている。彼女の3枚目であり、最新のリリースはベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲であり、これはウィグモア・ホールにおけるピアニストのセドリック・ティベルギアンとの演奏会のライブ録音である。

 彼女の数々の輝かしい受賞歴のすべて書き記したら、大変に長いリストになってしまい、ここではスペースが足りなくなってしまう。そこでその一部をあげるなら、ラジオ3のニュー・ジェネレーション・アーティストに選ばれ、2001年度ロンドン交響楽団の音楽奨学金を授与され、パリ、ザルツブルグ、そしてヴェルビエのクレメラータ・バルティカのソリスト/ディレクターに抜擢され、サー・チャールズ・マッケラス、オスモ・ヴァンスカ、ヤニック・ネゼ=セガン、フィルハーモニア、BBC響、オーストラリア室内響、バーミンガム市響を始めとする数多くの著名な指揮者やオーケストラとの共演が続いている。日ごろはヴェニスで製作された1738年製ピエトロ・グァルネリを演奏しているが、古典のレパートリーのときはガリアーノに替えている。

 ここで率直な質問を投げかけてみた。何もかもが早く進みすぎているのではないか。挫折を味わうことなく、このような異常な速さで成功を収めて大丈夫なのか。このような質問にもイブラギモヴァは動じなかった。「いいえ、そのような心配はしていません。私の家族も、先生も、事務所も、皆が一時にいろいろなことが重なることのないように注意深く私のスケジュールを組んでくれていますし、私自身も常に背伸びをすることのないように、身の丈にあったものと取り組むように意識してきました。その良い例がチャイコフスキーの協奏曲です。まだ私には早い、今は、つまり今日明日においては早すぎると思っています。」

 これは彼女がその作品を技術的に弾けないということでは決してないし、ロシア作品の中でもの最高峰にそびえる偉大な作品に怖気づいているわけでもない。「私はこの作品を何年も弾いていないので、再びこの作品に戻るときは新たなレベルに達したうえで演奏したいのです。」と話しているのだ。これはまさに彼女の性格を現しているといえよう。彼女は落ち着きがあり、ウィットに富み、誠実な女性である。そこには、うぬぼれや尊大さといった要素は全く見られない。彼女は自らの人生と周りからの多くの期待や要望とのバランスを絶妙に保つすべをもっているのであろう。

 1985年に音楽家の両親のもと、ロシアに生まれた彼女は10歳のときにロンドンに居を移している。父親のリナート・イブラギモヴァがロンドン交響楽団の首席コントラバス奏者に就任したためだった。引越しはつらかった?「ええ、猫とのお別れがつらかったわ。でもロンドンに着くや否や大好きになってしまいました。母は1年くらいで帰国するだろうと考えていたようですが、まだロンドンに住んでいます。そして私はイギリスとロシアの市民権を得ました。ロシアは大好きだけど、コミュニケーションがうまくできないと思うことがあります。もちろん言葉は話せますが、子供の頃とロシアもかなり変わりましたから」

 イブラギモヴァは今では一流のヴァイオリニストであり、彼女の将来は約束されている。「私たちがまだモスクワにいた頃、私の両親は2人ともボリショイで仕事をしていました。私の母はヴァイオリンを演奏し、指導もしていました。だから私は母の練習を聞いて、私もヴァイオリンが欲しいとねだったのです。私にとってはごく普通のことであり、私が何をするのか、分かっていました。家系なのです。自分の両親がしていることと同じことをしたいと思うのは自然なことでした。」

 西側の国で育った人間は個人の自由と自立という考え方を育みながら成長するため、家族の足跡が“ごく自然に”自分の歩む道と重なるとは考えにくいだろう。しかしソビエト時代を最後の年月を家族と共に過ごしたイブラギモヴァの場合は西側の人々とは違う伝統を受け継いでいるのである。実は彼女の14歳の弟もまた将来を嘱望されるピアニストなのだ。反抗したことはないのだろうか。「ええ、ありません。」と自身の中には全く迷いのない彼女はどこか戸惑って、笑いながら答えた。

 「もちろん、かたくなだった時期がないわけではありません。どんな子供でも厳しい練習は好きではないと思います。でも練習そのものを疑問に思ったことはありませんでした。なぜなら私にとって必要なトレーニングだったからです。私には楽器を学んでいない友達がいましたが、毎日練習をしない彼らがどのように自分の時間を過ごしているのだろうと不思議でなりませんでした。たぶんテレビを見たり、外で遊んだりしていたのだと思います。私も一緒に遊ぶことがありましたが、それは3時間練習してからのことでした。そしてそれは私にとってはごく当たり前のことだったのです。

 英国において彼女は母親も教鞭を取っていたメニューイン音楽院でナターシャ・ボヤルスキに師事した。「10代の半ばの頃の私は一部の作品を演奏するのが怖くてなりませんでした。中でもモーツァルトは特に苦手でした。ですからとても一生懸命練習して苦手を克服しようとしたのです。問題は技術的なものではなく、また音楽的な演奏をするにはどうしたらよいか、と言った問題とも違いました。とにかく克服にはそれなりの時間がかかりました。」

 妖精のような音楽家は微笑ながら今までに、モスクワとメニューイン音楽院で受けてきた教育に対する感謝の念を表した。「規律正しい鍛錬とシステマティックな手法、私はまさにロシア方式で教育を受けました。すべての技術的な問題はさらに難しい作品に当たる前に完全に解決されなくてはなりません。ナターシャ・ボヤルスキ先生はまさにその伝統そのものでした。でも良い先生とは、生徒がその難しさをほとんど認識しないままに目の前の課題を練習してこなしていくようにしてくれるものです。」

 お母さんは指導に当たらなかったのですか?「母は私が他の先生につくように心掛けていましたが、いつでもドアの向こうにいました。つまり、近くで聞いていたのです!そして私が12歳になるまで、1人でしっかりと練習ができるようになるまで、私の練習を指導してくれました。」イングランド南東部のサリーの田舎、ストーク・ド・アベルノンにあるこの特別な音楽学校の方針はあの才能豊かなナイジェル・ケネディにはあわなかったようだが、イブラギモヴァにはあっていたようだ。メニューイン自身の存在感がまだ強く残っていた時代でもあった。

 「彼の存在はとても強く感じていました。ほとんど教えることはありませんでしたが、場所そのものが彼の存在と重なっていたのです。学生の数は63人で、まるでひとつの大きな家族のようで、知らない人はいませんでした。そしてそれだけに真剣な空気が漂い、ドロップアウトする人もいました。ソロ、オーケストラ、室内楽、アカデミックな勉強のそれぞれをいろいろに組み合わせた勉強、そして自分自身の練習、和声と対位法、聴覚訓練、本当に大変な時期でもありました。」

 彼女は再びあのように勉強する機会を与えられたらまた受けても良いと考えている。「とても多くのことを学びました。当初は分かりませんでしたが、学んだことは後になってからすべてつながっていたことが良くわかりました。本当にすばらしい指導でした。私は常日頃から演奏法、あるいは音楽に関するちょっとしたことについて考えますが、それがこの学校のすごいところだと思います。」

 1999年に彼女はメニューイン音楽院で共に学んだニコラ・ベネディッティと共にバッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲をメニューインの亡くなる少し前に彼のために演奏している。そしてメニューインの死後、ウェストミンスター寺院でのメモリアル・コンサートでも演奏をしているのだ。

 彼女の音楽人生は音楽院の卒業後に大きく変わった。先ずギルドホールで1年間学び、その後ロンドンのロイヤル音楽院でLSOのリーダーであるゴルダン・ニコリッチに師事する。「ゴルダンは音楽への、精神的な世界への多くの扉を開けてくれました。大学に入ったとき、私は単純にバッハやベートーヴェンは演奏したいけど、パガニーニは嫌だと考えていました。そして彼が最初に私に与えた課題がパガニーニだったのです。」腹が立たなかったのだろうか?「いいえ、でもとても驚きました。私は彼を信頼していましたし。多くの10代がそうであるように、私もまた自分を押し殺したのです。そしてパガニーニを始め、彼が与えた課題に私は逆に魅せられてしまったのです。」彼女は現在でも時おり、クリスチャン・テツラフによる世界的に名高い弦楽器のための研究所であるドイツのクロンベルグ・アカデミーで勉強している。クリスチャン・テツラフにはレッスンを受け始めて10年の月日が過ぎている。

 女子学生を卒業した今、イブラギモヴァはジャズを演奏し、即興をしてみたいと考えている。そして古典、バロック、現代曲といった広いレパートリーに加えて民族音楽にもレパートリーを広げていきたいと考えている。彼女は現在ベルリンとロンドンで生活しているが、最近話題となっているブタペスト近郊で行われるカポシュ音楽祭とも縁が深くなっている。「ええ、今の私は何でもやってみたいのです!私が一緒に演奏している弦楽四重奏団には多くの時間を費やしています。さらに大きな協奏曲の演奏も控えています。例えば、バルトークの第2番とか、ウォールトン、エルガー、ドボルジャーク、そしてシマノフスキー第2番といった大曲です。これらは私のやりたいことではなく、演奏したいものなのです。とにかく、すべては音楽が第1なのです。」

 もちろん私生活だって存在する。「外国語の勉強もしたいですね。それから運転免許も取りたいし。それから弦楽器とピアノに囲まれて育ったので、管楽器についてももっと知りたいですね。呼吸についての正しい知識を得られたらどんなに良いでしょう。」と話して話が音楽に戻っていることに気が付き、彼女はクスクス笑い出した。実際のところ彼女は専門とする楽器においてはかなりのことを既に達成してしまっているのである。
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